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第3回 嚥下食調理技能者講習会

 一般社団法人 食とコミュニケーション研究所は,2022年度から嚥下食調理技能者講習会を開始することになりました.わが国では,『食べられなくなったら人生終わり』という時代から,『食べにくくなっても,食べやすいものを選び,食べるリハビリテーションをして長き人生を食と共に全うする』時代へと変わりました.同時に,高齢者や摂食嚥下障害者の食のQOLが飛躍的に高まりました.企業の取り組みも活発でそれを後押ししています.
 国も各学会も摂食嚥下障害の方がより良い食生活を過ごすことができるように,各種基準を策定しています.各基準作成によって,どのような食物をどのように提供すればよいかがわかってきました.
以下に示すように具体的な基準が学会や国から基準化されています.


嚥下調整食学会分類2021(Japanese Dysphagia Diet 2021)
出典:日摂食嚥下リハ会誌25(2):135–149, 2021




嚥下食ピラミッド
出典:https://www.engesyoku.com/kiso/kiso06.html


しかし,嚥下食(嚥下調整食)を理解し適切に調理できる人材が不足しています.嚥下食を調理できる人材育成が急務です.
不足している理由は,嚥下食(嚥下調整食)は,物性・味・温度管理・水分量・油脂など病態を理解しながら適切な食物を調理することが求められるからです.単に,ミキサーにかけたりつぶせばよいという調理とは異なるからです.

食とコミュニケーション研究所では,『嚥下食調理技能者』を育成することを目的に,講習会を開催します.

『嚥下食調理技能者』とは?

 一般社団法人 食とコミュニケーション研究所では,嚥下食調理技能者を「摂食嚥下障害の基礎知識,病態,評価,リハビリテーションを理解した上で,摂食嚥下障害の方に安全で美味しく適切な嚥下食を安心して提供できる調理技能を有した方」と定義しています.

◇講習会の目的
 嚥下食調理技能者を育成する.

◇到達目標
 嚥下食の段階を理解し,基本の調理の加工ができるようになる.

◇到達知識・技能レベル
(1) 摂食嚥下障害および嚥下食について説明できる.
(2) 嚥下食の段階を理解し調理の基本を実践できる.
(3) 調理器具の特性を知り,嚥下食の加工に使用することができる.
(4) 増粘剤やゲル化剤などの特徴を理解し,使い分けることができる.
(5) 嚥下食に適切な食材の選択をし,調理加工することができる.

◇講師陣
 金谷節子先生,柴本 勇先生

講師紹介

金谷節子先生 管理栄養士
 金谷栄養研究所 所長
 聖隷三方原病院栄養科長として,嚥下食の確立に尽力した.
 病院給食に真空調理を採用し病院でのフルセレクトメニューを全国に先駆けて実現した.
 病態栄養学を通じて栄養を科学的に探究している.
 「嚥下食メニューコンテスト」 審査委員長
 「介護食品・スマイルケア食コンクール」審査委員長
 「嚥下食レシピ大賞」特別審査員

柴本 勇先生 言語聴覚士
 聖隷クリストファー大学 教授
 聖隷嚥下チームの一員として,嚥下食の確立に貢献した.
 豊富な臨床経験に裏打ちされた,摂食嚥下リハビリテーションの専門家.
 「認定言語聴覚士(摂食・嚥下領域)」
 「日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士」
 「日本嚥下医学会 嚥下相談員」
 「嚥下食メニューコンテスト」審査委員
 

講師陣が調理した嚥下食の例

(すべて摂食嚥下障害の方々に召し上がって頂けます)

嚥下食調理技能者講習会終了報告

第3回嚥下食調理技能者講習会を修了いたしました。
オンライン講義 2023年10月01日(日)・ 11月4日(土)
実技講習    2023年11月19日(日)

●参加者
管理栄養士、看護師、介護福祉士、児童支援員、言語聴覚士、食品メーカー

■オンライン講義
講習会参加者には、嚥下食の基礎や物性の理解、嚥下障害の基礎知識や支援方法、リスク管理などをあらかじめ学んで頂きました。受講生からは具体的な質問や講師とのディスカッションを通じて、嚥下食について学ばれました。

■実技講習
・均質なゼリー食の調理方法、不均質なゼリー食の調理方法
・ピューレの調理方法
・固形物(嚥下障害者用ハンバーグなど)


実技講習では、講師の金谷節子先生から、ゼリーの作り方や食材の加熱方法、時間管理、温度管理、ミキサーの使い方を含む、嚥下食の基本から応用までを学びました。




 真空包装機や湯煎機の使い方も教わりました。真空調理では、「生の大根にどれくらい味が染み込むのか」食紅に浸した大根を用いてのデモンストレーションも行われ、その染み込み具合に多くの驚きの声が上がっていました。毎日の調理では、真空調理が難しいことも想定されますので、どこでもできるビニール袋を用いたパッククッキングの調理方法も学びました。




 嚥下すしの具材のとろとろ卵をポリ袋で作っている様子(パッククッキング)




 嚥下食ピラミッドL3レベルのハンバーグを調理しました。嚥下障害の方でもハンバーグを楽しんで頂きたいとの願いを叶えました。




 実技講習では、調理中も、講師の金谷先生、柴本先生にその場で直接質問して頂きながら学びます。。




 軟飯(お粥の重湯抜き)とクイック介護食の鮭とホタテ、椎茸の甘煮を使った嚥下寿司の調理方法。



 参加者の方からは、「どれもおいしい!」「色々な作り方があることに驚きました」「実践的な方法を知ることができました」などの声が寄せられました。
 また、講習会では、金谷先生が、多くの患者様と食を通して向き合われて得られた多くの体験を共有くださいました。知識と技能を学ぶだけでない、大変貴重な場となりました。

第3回嚥下食調理技能者講習会を受けて

窪倉医院 管理栄養士 窪倉紀子 

 私は栄養指導を担当しているクリニックの管理栄養士です。日々の業務の中で気になり始めたのが、1人で来院できていた方が体力の衰えと共に通院が難しくなり、毎日の食事の支度や今後の生活に不安を感じていると話す高齢者が増えてきたことです。また、家族が入院し退院後の介護用の食事内容がわからないという相談も受けるようになりました。その為私はクリニックの中だけでは知り得ない在宅の高齢者の実態と栄養管理について深く学ぶため、日本在宅栄養管理学会の『在宅訪問管理栄養士』の認定試験を受験しようと勉強を始めました。そして「介護食における栄養管理」というテーマを学んでいるとき、実際に嚥下食は作ってみなければ何もイメージ出来ないと強く感じました。そこで今回、食とコミュニケーション研究所の『嚥下食調理技能者講習会』を申し込みさせていただきました。
 金谷先生と柴本先生の2回のzoom講義の後、実際にお会いして実技講習を受けるのがとても楽しみでした。「簡単で、手早く出来て、美味しくて、栄養があって、安全で、経済的で、しかも片付けが楽!」という究極の介護食を金谷先生はたくさん紹介してくださいました。特に色と香りと味を押し込めてしまう「真空調理」や重湯ゼリーを使っての「嚥下すし1J」、軟米やクイック介護食を使った「軟米握り寿司」にはとても驚かされました。「黒糖ゼリー」も飲み込みやすくとてもおいしかったです。もう少し早く知っていればガンの末期で亡くなられた患者さんに食べさせてあげたかったと残念でした。また、胃瘻を宣告されたにもかかわらず嚥下リハビリで頑張り、歯茎で潰せる段階まで回復された方(水分は全てとろみ指示)が近々退院予定です。現在その家族の方から食事の相談を受けています。こうした相談にも積極的にのれる意識を与えてくださった金谷先生、柴本先生の講習に感謝しております。
 お陰様で先日受験した在宅訪問管理栄養士の認定試験で合格通知もいただきました。これからも摂食・嚥下の勉強や研修会に参加してさらに学びを深め、その方に合った栄養ケアのサポートがクリニックでも在宅でも出来るような管理栄養士になりたいと思っています。


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