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2022/03/30

「嚥下食調理のコツ」

食とコミュニケーション研究所理事 岩品有香


 嚥下食と聞いて、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか?
 では、ホタテのテリーヌ、トマトのムース、フレンチトースト、南瓜のポタージュ、こちらはどうでしょう?頭の中でおいしい料理を想像できたのではないでしょうか?
 実は、今挙げた料理も嚥下食として提供が可能な料理です。
 食事は生きる喜びでもり、毎日の楽しみのひとつでもあります。今回は、嚥下食調理を行うときにおさえておきたい3つのポイントについてお伝えします。


1.安全であること
 安全な嚥下食の特徴として、やわらかく、まとまりやすく、べたつきにくいことが挙げられます。この3つの要素が重なり合っていることが重要です。ミキサーにかけてやわらかくしてもべたべたしているもの、寒天のようにつるんとしていても、口の中でバラバラになってしまうようなものは誤嚥の原因になります。
 例えば、ゆで卵や炒り卵は、水分が少なくパサパサしていて、嚥下障害のある方には難しい料理です。同じ卵料理でもスクランブルエッグやプリンは嚥下食に向く料理です。その違いは、適度な水分、油脂が含まれていること、加熱する温度の違いです。卵は良質なタンパク質を含んだ安価な食材のため、嚥下食調理におすすめの食材のひとつです。
 【嚥下しやすい食品】
   ・ゼリー、プリン、ムースなど
   ・卵豆腐、絹豆腐、具なし茶わん蒸しなど
   水でも固形でもないゲル状のものが嚥下しやすい食品と言えます。
 【嚥下が難しい食品】
   ・こんにゃく、かまぼこなど弾力のある食品
   ・ゆで卵、ピーナッツ、焼き芋、せんべいなどパサパサ、バラバラする食品
   ・餅や団子など粘りの強い食品
   ・たけのこやごぼうなど硬い食品
 水分摂取は重要ですが、水もまた嚥下が難しいため、ゼリーにしたりとろみをつけたりする工夫が必要になります。ゼラチンの活用の他、市販のゲル化剤やとろみ剤もありますのでそれらを活用するとよいでしょう。


2.見た目や香り、美味しさ
 「この食事、食べたいと思う?」以前、福祉施設に勤める栄養士を指導していた時によくこのように聞いていました。返事は無言か、「思わない」でした。安全であれば美味しくなくてもいいなんて、とても悲しいことです。美味しさのひとつであるパリパリやシャキシャキとした食感を楽しむことは難しいですが、食材の鮮やかな色や香り、だしの旨味など、嚥下食でも味わえる食の楽しみはいろいろあります。日本人は特に見た目の美しさや香りに食欲をそそられます。美味しい食事には人を元気に幸せにする力があります。嚥下食調理に携わる方、特に病院や施設で業務として嚥下食を提供する方には大事にしていただきたい点です。試食して、べたべたしていないか、食材の味が消えていないか、飲み込みやすいか、確認してみましょう。


3.低栄養・脱水予防
 高齢者の低栄養や脱水はQOLの低下や免疫力の低下に繋がります。摂取量が少なく嚥下食だけで必要な栄養量を満たすことが難しい場合は、市販の栄養補助食品を併用することも大切です。タンパク質や脂質の摂取は体作りの基本となりますし、ビタミンやミネラルは嚥下食にも必要な要素です。野菜を嚥下食調理にするときは色の濃い野菜を選びましょう。見た目が鮮やかになるだけでなく、色の濃い野菜には抗酸化成分が含まれます。また緑茶には高い抗酸化力と殺菌効果があり、お茶ゼリーを水分摂取として活用すれば、口腔ケアにも役立ちます。

 嚥下食調理は難しい、手間がかかる、というイメージをお持ちかと思います。嚥下食を作る上での注意点はありますが、コツをつかめば、安全で美味しくバランスの良い嚥下食を提供することが可能となります。
ひとことで嚥下食といっても、その段階により食べられる食品や形態は異なります。嚥下食を召し上がる対象の方がどの段階のレベルにあるかを確認することが重要です。また食事の内容だけでなく、口腔ケアや食べる姿勢、環境などの要素を整えることも必要になりますので、不明な場合は、専門家に確認するとよいでしょう。

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