トップページレポートコラム乳幼児の偏食・拒食を考える

2025/02/12

「乳幼児の偏食・拒食を考える」

 偏食・拒食の背後にある脳の働き

大阪保健医療大学 川畑武義


 偏食や拒食など食行動の異常は、近年の神経科学的な研究によって脳が重要な役割を果たすことが明らかになっています。例えば、大脳の「扁桃体」や「島皮質」といった部分は、ヒトがどのように食べ物を受け入れ、拒否するかに深く関与しており、「言語野」は感情を言葉で表す働きをします。これらの脳機能が食事に対する反応や感情をどのように調整しているのかを理解することは、偏食や拒食の原因を探る上で非常に重要です。

 扁桃体は感情の処理に関わり、特に「恐怖」や「不安」の感情を処理します。乳幼児が新しい食べ物に恐怖や不安を感じることはよくあります。見慣れない食べ物や新しい味に対する警戒心が強く働き、これが食べ物を拒む原因となるのです。扁桃体が強く反応すると、「この食べ物は怖いから食べたくない」といった感情が優先され、偏食や拒食の症状が現れることがあります。

 一方で、島皮質は体内の状態、特に内臓からの信号を感知し処理する役割を担います。例えば、空腹感や食べ物を飲み込んだ感覚などが島皮質によって処理されます。この領域が正常に働かない場合、体調に関する認識が鈍くなり、食欲の低下が生じる可能性があります。また、乳幼児が食べ物を拒否する際、その原因が体調不良であることもあります。例えば、胃の不快感やおなかの調子が悪い場合、食欲低下や拒食が表れることがあります。

 そして、大脳の言語を司る部分についても、偏食や拒食との関連を考えることができます。ブローカ領域は、言葉を使って感情や思考を表現する役割を担っています。乳幼児は、まだ言語能力が十分に発達していないため、自分の感情や体調を言葉で表現することができません。このため、食べ物への拒否感情が言葉で伝わらず、身体的な反応として食べ物を拒むことになります。島皮質とブローカ領域は感情や身体感覚を関連づけて表現する重要な役割を果たすため、これらの脳の働きが協調することが、食べ物を受け入れるための感覚的な認識と表現に影響を与えると言えるのではないかと思っています。

 このように、乳幼児の偏食や拒食は、脳の複数の部位が関与する複雑なプロセスによって引き起こされる現象です。扁桃体や島皮質、さらには言語野との相互作用を理解することは、食事の問題へのアプローチを考える上で非常に有益だと考えます。乳幼児が食べ物を拒む背景には、好き嫌いや癖だけでなく、脳が機能としてもつ反応もあることがわかってきました。これを踏まえた適切な対応により、偏食や拒食の改善につながる可能性があります。

 次回は、乳幼児の偏食や拒食に悩むお子さんへの支援について、脳の働きに基づいた視点からお話しします。

【参考文献】
1)三宅典恵:摂食障害.BRAIN and NERVE 67(2):183-192,2015


2025/04/24

「乳幼児の偏食・拒食を考える」

 脳の働きに基づいた視点から考える支援方法

大阪保健医療大学 川畑武義


 乳幼児の偏食や拒食への支援を考える際、脳の機能を理解することが重要です。食べ物を拒否する原因の一つに、恐怖や不安、過去の不快な経験があり、これらは「扁桃体」や「前頭前野」の働きが関わっています。扁桃体は恐怖や不安を処理し、新しいものに対して強い反応を示します。これにより、乳幼児は新しい食べ物に恐怖や不安を抱き、拒食や偏食を引き起こすことがあります。また、前頭前野は意思決定を司る部分であり、乳幼児はこの領域が未熟なため新しい食べ物に積極的に挑戦することが難しく、その結果食べ物に対する抵抗感が高まることがあります。
 これらの負の感情をコントロールするためには、言葉の発達が重要です。言葉が発達し、自分の感情をコントロールしたり表現しやすくなったりすることで自己調整が可能になります。言葉の発達を促す支援は、乳幼児の偏食や拒食に対する有効なアプローチとなります。

 ① 探索(遊び)を通じて新しい経験を促す
  「探索」は新しい経験に対する好奇心を引き出す重要な行動です。遊びを通じて新しい食べ物を紹介することは、扁桃体の反応を和らげる効果があると考えられます。遊びによって、食べ物を恐ろしいものではなく楽しいものとして認識させることで、食べ物に対する恐怖が減少し、新しい食べ物に挑戦しやすくなります。例えば、粘土で食べ物を形作ったり食材で遊んだりすることで食べ物に対する不安を軽減することができると考えられます。
 ② 言葉を使って食べ物への肯定的な感情を育む
  言葉の使用は前頭前野を活性化し、食べ物に対する態度を形成する上で非常に効果的です。ポジティブな言葉を日常的に使うことで、食事を楽しい体験として認識させ、食べ物への抵抗感を減らすことができます。また、食べ物の名前を覚えたり食べることが楽しいことだと伝えたりすることで、乳幼児の食事に対する前向きな感情を育むことができます。これにより、食べ物に挑戦する意欲が高まり、前頭前野が積極的な行動を促進します。
 ③ 感情と身体的反応を認識する
  乳幼児が食べ物に対して感じる不安や恐怖の感情を理解し、適切に言葉で表現することが重要です。「これを食べると元気になるよ」や「初めて食べるから少し怖いかもしれないけれど、大丈夫だよ」といった言葉で不安を和らげることで、扁桃体の過剰な反応を抑え、食べ物への挑戦をサポートできます。感情を適切に表現し、安心感を与えることで、乳幼児はよりリラックスして新しい食べ物を試しやすくなります。
 ④ 身体的な反応を促進する
  食べ物を食べることが身体的な幸福感と結びついていることを認識させることも重要です。食後に元気に遊ぶ姿を見せることで、食べることが楽しい活動に繋がるというポジティブなフィードバックを与えることができます。身体的な反応がポジティブであることを示すことで、乳幼児は食事に対する抵抗感を減らし、食べ物に対する積極的な態度を持つようになります。

 乳幼児が新しいことに挑戦する際に抱える躊躇や不安は、脳の扁桃体や前頭前野の働きによるものです。偏食や拒食の問題への支援は、探索を通じて新しい食べ物に挑戦する機会を提供し、言葉を使って食べ物への肯定的な感情を育み、感情や身体的な反応に配慮してサポートすることが効果的です。これらのアプローチを組み合わせることで、乳幼児は食べ物への不安を和らげ、食事を楽しい体験として受け入れることができるようになると考えられます。


Copyright © 一般社団法人 食とコミュニケーション研究所 All Rights Reserved. Produce by Web浜松