トップページレポートコラム口腔運動評価の専門的視点

2022/01/31

「うまく食べるための,うまく話すための,口腔運動評価の専門的視点」

聖隷クリストファー大学 柴本 勇


 食べることや話すことは,口腔機能と直結しています.日本老年歯科医学会では,「口腔機能低下症」の定義と診断基準を示しています.7項目の視点と,基準を示しています(表1).表1に示す7項目中3項目以上該当する方を「口腔機能低下症」と定義しています.

表1 口腔機能低下症の検査と基準(日本老年歯科医学会)

 これまで,なんとなく「噛みにくくなった」,「食べにくくなった」,「話しづらくなった」ということを感じていらっしゃった方が,診断され治療やリハビリテーションが行われるようになることは日々の生活の向上という点でも重要です.

 言語聴覚士など食事のリハビリテーションを行う専門職は,より詳細な視点で口腔運動を捉えています(表2).食事を摂る時は,舌をはじめとする口腔運動はとても早く複雑です.わずかな運動の乱れがうまく食べられないことや窒息につながる恐れがあります.食事の支援は,食べる食物の選択や調整も重要ですが,その方個々の口腔運動や知覚の状況を正確に捉えてどのような課題があるかを知ることが重要な点です.

表2 食事を摂取するときの各段階で必要な口腔運動とアセスメント

 人が話すときも同様に,話している最中は舌をはじめとする口腔運動はとても早く複雑です.話すときと食べる時の口腔運動自体は異なりますが,早く複雑な運動という点は同じです.したがって,うまく発音がしにくい方は食べにくいということも自覚されているはずです.そういう意味でも,食とコミュケーションは切っても切れない関係です.


図1 「舌を前に出してください」と指示した際の運動パタン(健常者が模倣)


 図1に示す写真は健常の方がモデルですが,「舌を前に出してください」とお願いしたときの様々な出し方のパタンを示しています.正常パタンはCです.A, B,Dはそれぞれ運動する際に何らかの課題があります.まず,現象を正確に分析し課題を抽出します.その課題に対してアプローチし,より正確な発音を促すこと,安全で安心した食事の摂取を保障することが言語聴覚士をはじめとする専門職の役割です.



図2 舌運動の正常パタンと運動障害パタン(健常者が模倣)


 このように,口腔運動評価では専門的視点として,微細な運動の相違や変化を捉えていきます(図2).その方法として,機器を用いた評価と同時に臨床家の観察眼や着眼も大切です.臨床家としての観察眼は臨床を積み重ねることが大切です.そのような背景から,専門職の学会や職能団体では,専門家のためのセミナーを開催されて研鑽に努められています.食とコミュケーション研究所においても,毎年「口腔運動の評価」セミナーを開催しています.とても早く複雑な運動を正確に捉えることは簡単なことでなく,日々の積み重ねの研鑽が必要です.食やコミュケーションで困っていらっしゃる方々を支えるには,専門職に対するサポートプログラムの構築も重要な点と考えています.

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