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2021/02/07

「脳震盪とコミュニケーション障害」

聖隷クリストファー大学 柴本 勇


 先日,大相撲1月場所で取組中に脳震盪となられた関取がおられ,話題になりました.
 脳震盪とは,頭部への外的衝撃によって生じる一時的な障害を指します.通常は,画像上での器質的異常を認めません.スポーツや転倒転落によって生じた後の後遺障害等が指摘されたこともあって,スポーツ中の脳震盪の対応に関する声が高まりました.2001年11月には,国際オリンピック委員会,国際アイスホッケー連盟,国際サッカー協会が共同し,スポーツ時の脳震盪に関する第1回国際会議が開催されました.近年ではスポーツ関連団体や医療関連学会から脳震盪受傷時の対応指針が公表されています.例えば,International Rugby Board (IRB)や日本サッカー協会などでは,脳震盪が発生した時の初期対応から競技復帰までそれぞれの段階で明確なガイドラインに沿って対応されています(表1).

(International Rugby Board 競技復帰ガイドライン,2011)


 評価についても, 現場での初期評価 Sport Concussion Assessment Tool(SCAT) などがスポーツ競技の現場で用いられています.また,日本脳神経外傷学会や日本臨床スポーツ医学会なども治療等のガイドラインを示しています.

 では,脳震盪が重視される背景や障害について解説します.

 ■脳震盪で生じる症状(初期症状)
 ・意識消失
 ・混乱
 ・記憶障害:逆行性健忘,前向性健忘
 ※逆行性健忘:受傷前の出来事が思い出せない状態
 ※前向性健忘:受賞後の出来事を思い出せない状態
 ・視覚障害
 ・めまい,協調運動障害,平衡障害
 ・頭痛

 ■脳震盪後の症状(脳震盪後症候群)
 ・慢性頭痛
 ・短期記憶障害
 ・疲労
 ・睡眠障害
 ・易刺激性人格,気分変動
 ・光や音への過敏

 通常,これらの症状は通常数週間以内に消失すると言われています.しかし,中には遷延したり,加齢と共に上記症状が顕在化したりする場合があります.
 上記の症状は,日々の生活で以下のような状態となり,コミュニケーションなど高次な活動に影響を与えます.具体的には,以下のような症状となります.

 ・理解することや考えることに時間がかかる.
 ・計算等の速度の低下,暗算が苦手になる.
 ・集中力の低下や細かい違いに気がつかない.
 ・ことばや文字をすぐに思い出せない.
 ・複雑な内容や文章になると理解しにくい.
 ・関係性の理解がしにくい.
 ・新しいことを学習することが苦手になる.
 ・あらゆることについて記憶することが苦手.
 ・論理的に考えると疲労感が強くなる.

 これらのことが生じますと,これまでのコミュニケーションとは異なった状況になります.それが,自信喪失,抑うつ,イライラ気分,などに波及し,社会活動に制限が生じてしまうことがあります.日々の仕事などの活動に制限が発生する可能性すらあります.

 スポーツ等の外傷予防,重傷後の受診・定期的なチェックは重要です.素敵なコミュニケーションを継続していくためにも,正確な知識を持ち適切な実践ができたら素晴らしいと思います.

 コミュニケーション活動の遂行に必要なことは,ことばだけではありません.注意・集中・記憶・情緒など脳機能の総合活動で遂行されています.とてもデリケートな活動です.豊かなコミュニケーション活動を支えることは,その人を総合的に支援することとも言えるでしょう.

 コミュニケーションは様々な能力が密接にかかわって出来上がっています.人間だけに与えられた素晴らしい能力です.大切にしていきたいですね.

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